乳酸、ピルビン酸、アミノ酸、プロピオン酸などから、おおむね解糖を逆行してD-グルコースをつくる経路を糖新生(Gluconeogenesis)という。脂肪酸やアセチルCoAはピルビン酸に変換できないので,この代謝経路にのらない。ピルビン酸からグルコースに至る全反応は次のようになる。
2 Pyruvate + 4 ATP + 2 GTP + 2 NADH2+ + 6 H2O → Glucose + 4 ADP + 2 GDP + 6 Pi + 2 NAD+
段階(1)(5)でATP,(2)でGTPが消費される。この経路の最終段階の酵素(グルコース-6-ホスファターゼ)は肝臓と腎臓にしか存在しない(「肝腎かなめ」という)。従って,糖新生でグルコースをつくるのは肝臓で行われ,他の臓器ではグルコール 6-リン酸までである。
 解糖の1、3、10番目の段階(糖新生では段階(1)(2)(9)(11)に相当)は不可逆であるため、これらの段階は別の経路または別の種類の反応が利用される(「異化と同化は別経路」の例)。これによって、一見単なる逆反応のように見える糖新生と解糖を独立に制御できる。糖新生で見過ごせない事は,段階(6)でNADH2+を必要とする点である。解糖や糖新生に利用できるNADH2+の量は限られている。NADH2+ホスホグルコン酸回路から60%,リンゴ酸から40%が供給される。

 (青色の番号は糖新生に固有の経路)

最初の2つの反応は解糖の反応の逆とは異なる経路
反応は解糖の反応の逆とは異なり,加水分解。 酵素は肝と腎のみに存在




 糖新生では段階(6)でNADH2+を必要とする。乳酸からの糖新生では,乳酸をピルビン酸に変える過程でNADH2+が生じる。一方,ピルビン酸から糖新生を行う場合,このNADH2+を何らかの手段で供給する必要がある。これはリンゴ酸を経由することで解決される。
 アミノ酸から糖新生を行う場合は,肝臓に余計な窒素負担をかけるため,尿素回路との連携を必要とする。アラニンを例にとると,2分子のアラニンがピルビン酸になりミトコンドリアに入る。一方はリンゴ酸とNH3を,もう一方はアスパラギン酸になる。アスパラギン酸はこのNH3を処理するのに用いられると共にリンゴ酸に変る。このようにして生じた2分子のリンゴ酸から上と同様にして糖新生に必要なNADH2+が供給される。
 プロピオン酸から糖新生の場合,前半は奇数炭素の脂肪酸のβ-酸化の経路を利用し,次のようにしてNADH2+が供給される。
プロピオン酸プロピオニル-CoAS-メチルマロニル-CoAR-メチルマロニル-CoA
オキサロ酢酸

ホスホエノールピルビン酸

リンゴ酸フマル酸コハク酸スクシニル-CoA
  NADH2+    NAD+


 脳は一定のグルコースの供給を必要とするので,糖新生は飢餓状態では特に重要な代謝経路である。肝臓のグルコキナーゼはKm値が高いので,血糖が低下するとグルコース==>グルコース 6-リン酸の反応が低下する。一方,グリコーゲンの分解によりグルコース 6-リン酸が供給され,グルコース-6-ホスファターゼによるグルコース合成が高まる。
 飢餓状態が続けば,筋肉タンパク質が分解され,得られるアミノ酸の代謝物からオキサロ酢酸やピルビン酸がつくられ,糖新生によってグルコースが合成される。糖新生の最終段階の酵素(グルコース-6-ホスファターゼ)は肝臓と腎臓にしかないので,グルコースは肝臓でつくられ血流に放出され,脳や他の組織に運ばれる(グルコース-アラニン回路)。1gのグルコースを得るためには,2gのタンパク質を分解しなければならない。飢餓時には筋肉は脂肪酸を優先的に使用し,脳はケトン体を使用する。

筋肉 肝臓 飢餓により阻害
タンパク質 グルコース

アミノ酸
脱アミノ
TCA回路の酸 ピルビン酸 アセチルCoA

オキサロ酢酸
アラニン アラニン