単糖類 二糖類 多糖類
糖質とは,糖を主成分とする物質の総称である。糖は炭水化物とも呼ばれ,Cm(H2O)nの一般式で表される。しかし,アミノ糖のように窒素を含むものなどは,この一般式に当てはまらない。
糖質は,>C=Oまたは-CHOを1つもち,2つ以上の-OHをもつ化合物と定義できる。
グリセルアルデヒド    グリセリン   ジヒドロキシアセトン

 (monosaccharide)

 糖質は炭水化物とも呼ばれ,ヒトの栄養素の中でも最も重要なものである。ヒトが毎日食べるご飯やパンなどの主食はデンプンが主成分で,体内で分解されるとD-グルコース(ブドウ糖)を生じる。このグルコースは物質代謝の中心的な存在で,大部分の生命体がこの化合物を栄養素として利用する。
 細胞内に取り込まれたD-グルコースは,細胞質において解糖という経路で分解され,生命体の活動に必要なエネルギー(アデノシン三リン酸,ATP)を生み出す。大部分の原核生物はこの経路を利用してエネルギーを得ている。ミトコンドリアをもつ真核生物では,さらに,クエン酸回路と呼吸鎖を利用してより大きなエネルギーを得ることができる。
 余ったD-グルコースは肝臓や筋肉中にグリコーゲンという多糖類の形で貯蔵される。血液中のグルコース濃度(血糖値)が低下すると,グリコーゲンを分解してD-グルコースに変えて利用する。
 糖質の基本単位を単糖類という。>C=Oがケトンの場合をケトース(ketose)、アルデヒドの場合をアルドース(aldose)という。最小の単糖は炭素3つから成る三炭糖(トリオース)である。炭素5つのものを五炭糖(ペントース)、6つのものを六炭糖(ヘキソース)という。天然に存在する,または二糖類や多糖類に含まれる単糖類はほとんどがD型である。
光学異性
六炭糖は不斉炭素原子が4つ→24=16腫の光学異性体が存在。
D型 8種,L型 8腫である。従って,名称は8つ。
5および6個の炭素原子から成るD-アルドース
 ほとんどの単糖は水溶液中で鎖状構造以外に、a型とb型(アノマーという)の2つの環状構造をとって存在する。環状構造をとった場合,C1炭素に新しいヒドロキシル基が生じる。このヒドロキシル基はアルデヒド基から派生したものなので,還元性を示す原因となる。このようなヒドロキシル基をグリコシド性ヒドロキシル基という(下の図に破線で囲んだOH)。
@ D-グルコース(ブドウ糖 glucose)
 D-グルコースは天然に遊離の形で存在し、あらゆる生物にとって最も重要な栄養源である。ほのかに甘い。
 D-グルコース分子は,結晶状態では全て環状構造(ピラノース型)をとっている。結晶を作る条件により,a型とb型が生じる。D-グルコースを水に溶かすと,鎖状構造を介してa型とb型が生じ,最終的にこの3つの分子種の平衡混合物になる。a-D-グルコースはデンプン、b-D-グルコースはセルロースの成分である。
α-D-グルコース: [α]D = +112.2°
β-D-グルコース: [α]D = +18.7°

変旋光→平衡値 [α]D = +52.7°

ピラン    フラン
D-グルコース分子を鎖式構造で記すと上の中央のようになる。1位の炭素はアルデヒド基なのでグルコースは還元性を示す。D-グルコースのD型はC5炭素の立体配座で決める。
 D-グルコースは水溶液中で鎖状構造以外に、環状構造(ピラノース型)をとって存在する。環状構造をとった場合,C1炭素は不斉炭素原子になり,新しい異性が生じる。これをアノマーといい,α型とβ型で表す。環状構造をとるとC5炭素のヒドロキシル基がエーテル基に変化するとともに,C1炭素に新しいヒドロキシル基が生じる。このヒドロキシル基はアルデヒド基から派生したものなので,還元性を示す原因となる。このようなヒドロキシル基をグリコシド性ヒドロキシル基という(図の破線で囲んだOH)。
 D-グルコースは,結晶状態では全て環状構造をとっている。結晶をつくる条件により,α型とβ型が生じる。D-グルコースを水に溶かすと,鎖状構造を介してα型とβ型が生じ,最終的にこの3つの分子種の平衡混合物になる。

A D-ガラクトースはラクトース(乳糖)、糖脂質、寒天の成分で、天然に遊離の形では存在しない。
B D-マンノースも天然に遊離の形では存在しないが、多糖や糖タンパク質の重要な成分である。
C D-フルクトース(果糖 fructose)は果物中に遊離の形で存在する。ショ糖の成分である。砂糖と同程度の甘味をもつが,酸化され易いため,調味料としては用いにくい。D-フルクトースは環状構造をとるとき5員環となる(フラノース型)。
D D-リボースは五炭糖のうち最も重要な単糖で、核酸(RNA)の成分である。
左から,D-ガラクトース, D-マンノース, D-フルクトース D-リボース


 (disaccharide)

2つの単糖がグリコシド結合でつながったものを二糖という。マルトース(麦芽糖)、スクロース(ショ糖 sucrose)、ラクトース(乳糖 lactose)がある。
@ マルトース: 水あめの主成分で,麦芽糖ともいう。デンプンが唾液中のa-アミラーゼで分解されると生じる。
 2分子のD-グルコースがグリコシド結合でつながったもの。グリコシド性ヒドロキシル基をもつため還元性を示す。分子中でグリコシド性ヒドロキシル基の存在する末端を還元性末端,その反対側を非還元性末端という。
A スクロース: D-グルコースとD-フルクトースの還元性末端のOHどうしがグリコシド結合でつながったもの。
 市販品はグラニュー糖という。非還元性であるため酸化されないので調味料に利用されるが,結晶なので冷水に溶け難い。砂糖は,スクロースとその部分加水分解物の混合物であるため結晶とならず,水に素早くまた高濃度に溶ける。
B ラクトース:D-ガラクトースとD-グルコースがグリコシド結合でつながったもの。グリコシド性ヒドロキシル基をもつため還元性を示す。
  ラクトースは母乳や牛乳などの乳汁中に存在する。D-ガラクトースは新生児の神経細胞膜の糖脂質として使われるため,ラクトースは新生児に欠かせない栄養である。
マルトース スクロース ラクトース
天然に存在する二糖類
オリゴ糖: 3つ以上の単糖がつながったもの。
マルトトリオース シクロデキストリン ラフィノース

(polysaccharide)

 単糖類が多数グリコシド結合したものを多糖類という。同一種の単糖類から成るものをホモ多糖,二種以上の単糖類から成るものをヘテロ多糖という。
@ デンプン(starch, cane suger)
 a-D-グルコースがa-1,4(およびa-1,6)結合で多数重合したもの。重要な栄養源。デンプンは2種の分子の混合物である。
 アミロース: a-1,4結合のみでできた鎖状分子。分子はグルコース6単位で1巻きのらせん構造をしている。ヨウ素-デンプン反応で青色*を呈する。   *青色の原因は,I5-イオンによる。

デンプンの組成
種類 アミロース
(%)
アミロペクチン
(%)
モチ米 0 100
ウルチ米 17 83
小麦 24 76
ジャガイモ 22 78
 アミロペクチン: a-1,4結合の鎖状部分とa-1,6結合による枝分かれをもつ。平均鎖長は20〜25。枝分かれのため、分子全体は球状。
生デンプンは微結晶状態にあるので、消化されにくい。
Aグリコーゲン
 動物はグルコースをグリコーゲンに変えて肝臓に貯蔵する。動物デンプンと呼ばれる。アミロペクチン様の高分子で、アミロペクチンよりも短鎖で枝分かれが多い。平均鎖長は10〜14。分子全体は球状。
グリコーゲンの構造モデル
Bセルロース(cellulose, 繊維素)
 b-D-グルコースがb-1,4結合で多数重合したもの。直鎖状の分子である。
 木綿や麻の主成分。植物の細胞壁を構成する。
セルロースの構造
C その他の多糖
 自然界にはたくさんの種類の多糖が存在する。
ムコ多糖はアミノ糖(-NH-をもつ)を含んでいる。
《多糖の機能》
1) 貯蔵物質: デンプン、グリコーゲン、寒天、イヌリン、マンナン
アガロース
2) 生体構築: セルロース、ヘミセルロース、キチン、ペクチン、アルギン酸、コンドロイチン硫酸、ペプチドグリカン
キチン
3) 生体防御: ヒアルロン酸、リポ多糖、血液型物質