細胞外マトリックス 細胞接着分子 接着分子の異常
多細胞生物は、細胞→組織→器官→個体と段階的に構成されている。色の違う2種のカイメンをバラバラにし、それらの細胞を混ぜ合わせると、それぞれの色の細胞が集合し,元の個体になる。多細胞生物においては、細胞同士が付着したり、細胞外の物質に付着して存在するためである。
 このような細胞間の接着(細胞接着cell adhesion)には、細胞外マトリックス(extracellular matrix)や膜に存在する細胞接着分子(adhesion molecules),および細胞接着分子の細胞内の連結物としての細胞骨格(cytoskelton)が重要な役割を果 たしている。
細胞接着としては
  1. 細胞同士の接着: 細胞接着分子間の相互作用
  2. 細胞とマトリックスの直接接触による接着: 細胞接着分子と細胞外マトリックス間の相互作用
がある。
細胞間認識と細胞接着
【細胞接着の2つのタイプ】
  1. homophilic adhesion: 同一接着分子同士が相互作用して細胞を結合。
  2. heterophilic adhesion: 異種接着分子同士が相互作用して細胞を結合。
上皮組織
主に,上皮細胞同士が接着。アドヘレンス・ジャンクション、タイトジャンクション、デスモソームのような特殊化した接着構造を形成。
結合組織など
周辺の細胞外マトリックスに接着。
造血組織など
血液細胞などふだんは細胞接着してない細胞→細胞分化や機能発現時にはある種の組織へ接着。免疫応答における細胞間認識。
神経細胞
神経細胞の移動、軸索誘導,シナプス形成で,細胞接着が不可欠。

細胞外マトリックス

細胞外マトリックスと細胞接着
正常細胞の成長・分裂には他の細胞や基質への接着が必要→足場依存性(anchorage dependence)と称する。細胞と基質の仲立ちをするタンパク質(細胞外マトリックス)が存在。
細胞外マトリックスの種類
  1. コラーゲン群
  2. 非コラーゲン性糖タンパク質群
    フィブロネクチン,ビトロネクチン(血清中。培養細胞の接着因子),ラミニン,ニドジェン,テネイシン,トロンボスポンジン,フォンビルブランド(von Willebrand)因子(血漿中),オステオポンチン(破骨細胞),フィブリノーゲンなど。
  3. エラスチン群
  4. プロテオグリカン群
コラーゲン(collagen, COL)
体のタンパク質の約25〜30%を占める。軟骨,皮膚,腱,骨,軟骨,基底膜,足場となる繊維(アンカリングフィブリル)などを構成。
コラーゲンの種類
分類 分子種 特徴
1. フィブリル形成型 I,II,III,V,XI 7 nm周期の縞模様をもつフィブリルを形成。
2. ファシット型 IX, XII, XIV, XVI, XIX 三重ラセンが中断された線維会合型。
3. 短鎖型 VIII, X シートを形成。
4. 基底膜型 IV 全ての基底幕の成分。
5. マルチプレキシン XV, XVIII 三重ラセンが何度も中断された構造。
6. マシット型 XIII, XVI 細胞表面分子型。細胞接着分子?
7. その他の型 VI
VII
じゅず状フィラメント(ミクロフィブリル)を形成。
足場となる繊維(アンカリングフィブリル)を形成。
全て,3本鎖へリックスからなるドメイン(コラーゲンドメイン)をもつ。細胞表面分子型もある。細胞の接着,増殖,分化,移動,極性に関与する。コラーゲンのアミノ酸配列は

 -Gly-X-Y-  (Xはプロリン残基,Yは4-ヒドロキシプロリン残基が多い)

の三連配列が延々と繰り返した構造をしている。量は少ないが,3-ヒドロキシプロリンや5-ヒドロキシリシンも含まれる。
ウシtypr I (a1) コラーゲンのアミノ酸配列
黄色の背景のGは三連配列の1文字目のGlyを示す。この領域はポリプロリンII型の三重ヘリックス構造をとる。この構造でProのC=OとGlyのN-H間に水素結合が生じる。また,このGly残基が他の残基に変わると三重ヘリックス構造は変形する。

コラーゲンの三重ラセン構造 基底膜
フィブロネクチン(fibronectin, FN)
細胞外にネットワーク状に広がり細胞を覆う。細胞間を互いに連絡している。細胞の接着,増殖,分化,移動に関与する。
細胞膜の複数の細胞接着分子,プロテオグリカン,他の細胞外マトリックス(フィブリン,コラーゲン)などと結合。
フィブロネクチンはA,B 2本鎖がC端のS-S結合でつながった230 kDaの二量体タンパク質。N端領域同士で結合して分子が次々と会合し,長大な線維を形成。複数のモジュールと機能ドメインから成る。
フィブロネクチンの構造
フィブロネクチン前駆体の1次構造
小文字下線部,シグナルペプチド; 灰色,モジュールI型; 赤,モジュールII型; 橙と黄色,モジュールIII型
52-272: フィブリン-ヘパリン結合部位。 308-608: コラーゲン結合部位。
2206-2337: フィブリン結合部位 464-477: コラーゲン結合に必須。
太字: 細胞接着部位(RGD/PHSRN/LDV/REDV)。
ドメインIII-10中のRGDモチーフやIII-9中のPHSRN配列がインテグリンa5b1と,IIICS領域中のLDVREDV配列がインテグリンa4b1と結合。
【モジュールとは】
タンパク質の1次構造で,ある特徴をもつ繰り返し配列。しばしば他のタンパク質にも
同じモジュールが見出される。
フィブロネクチンの3つのモジュールの立体構造
(A)コラーゲン結合モジュールI型とII型。それぞれ,2つのS-S結合がある。
(B)モジュールIII。S-S結合はない。右上のループにRGD配列が存在。
ラミニン(laminin, LM)
IV型コラーゲン,ニドゲン,ヘパラン硫酸プロテオグリカン(パールカン)とともに基底膜を構成。神経突起成長や細胞の接着,増殖,分化,移動に関与。
ラミニン単量体(3本鎖)が多数会合し,網目状の多量体(ラミニンゲル)を形成。
ラミニンa鎖は5種,b鎖は2種,g鎖は3種の組み合わせで,12種のイソフォームが存在。
ラミニンの種類
a 三量体組成 発現部位 インテグリン結合
1 a1b1g1(ラミニン-1)
a1b2g1(ラミニン-3)
胎児組織
a6b1
2 a2b1g1(ラミニン-2)
a2b2g1(ラミニン-4)
a2b1g3(ラミニン-12)
筋肉,神経

a7b1 a3b1 a6b1

3 a3b3g2(ラミニン-5)
a3b1g1(ラミニン-6)
a3b2g1(ラミニン-7)
皮膚,肺

a3b1 a6b4

4 a4b1g1(ラミニン-8)
a4b2g1(ラミニン-9)
血管
a6b1 a3b1
5 a5b1g1(ラミニン-10)
a5b2g1(ラミニン-11)
腎,肺,膵臓,血管
a3b1 a6b1
ラミニンの構造モデル
a鎖,b鎖,g鎖の3つのサブユニットから成る十字架形。
球状ドメインが細胞接着部位。 I 〜VI , G , E8 , a はドメイン名。
アミノ酸配列は種々の機能に関与するもの。
フィブリノーゲン
血液凝固の最終段階で働く分子。Aa, Bb, g鎖が2分子ずつ結合した6量体タンパク質。トロンビンの作用を受けてフィブリのペプチドAとBが遊離し,フィブリン(a2b2g2)に変わる。血小板凝集でも重要な役割を果たす。
フィブリノーゲンの三重ラセン構造
血小板凝集とフィブリノーゲン
GPIIb/IIIa,フィブリノーゲンを結合するインテグリン; vW,フォンビルブランド因子; GPIb,vW受容体となるインテグリン.
血管内皮細胞が傷ついて基底膜のコラーゲンが露出すると,フォンビルブランド因子がこれに結合する。フォンビルブランド因子は血小板膜上のGPIbを介して血小板と結合する。ついで,フィブリノーゲンが血小板の膜タンパク質(インテグリンaIIbb3)に結合し,血小板を架橋することによって血小板を凝集させる。
プロテオグリカン
グリコサミノグリカン鎖がコアタンパク質に共有結合したもの。
  1. 細胞表面プロテオグリカン
     細胞膜に存在。細胞接着・離脱,成長因子触媒に関与。
  2. 細胞外マトリックスプロテオグリカン
     細胞外に存在し細胞接着をモジュレートする
  3. 細胞内の分泌顆粒を構成するもの
《グリコサミノグリカン》
N-アセチル-D-グルコサミンかN-アセチル-D-ガラクトサミンの二糖単位が繰り返した多糖。ヒアルロン酸(HA),コンドロイチン硫酸(CS),デルマタン硫酸(DS),ヘパラン硫酸(HS),ケラタン硫酸(KS),ヘパリンがある。
プロテオグリカンの構造 N-アセチル-D-グルコサミン N-アセチル-D-ガラクトサミン コンドロイチン 6-硫酸
グリコサミノグリカン鎖としては,HA, CS, DS, HS, KS, ヘパリンなど。
二糖の構成単糖にはN-アセチル-D-グルコサミンかN-アセチル-D-ガラクトサミンが含まれる。
二糖の相手としては,D-グルクロン酸,L-イズロン酸, D-ガラクトースなど。結合位置は3または4位。

細胞接着分子

細胞膜には多くの膜タンパク質(接着分子)が存在し,細胞間の相互作用に関与。

 細胞接着分子の種類
  1. カドヘリンスーパーファミリー: homophilicに作用。
    クラシックカドヘリン: アドヘレンス・ジャンクションの形成と維持に関与。
    プロトカドヘリン: 神経細胞の結合に関与
    デスモグレイン: デスモソームの形成と維持に関与。
  2. インテグリンファミリー: 細胞-マトリックス接着に関与。heterophilicに作用。
  3. クローディンファミリー: オクルディンとともにタイトジャンクションを形成。
  4. 免疫グロブリンスーパーファミリー(NCAM、L1、ICAMファミリー、ネクチン): 上皮、血管内皮、免疫系、神経などの様々な細胞間認識に関与。homophilicとheterophilicに作用。
  5. セレクチン: 白血球の組織分配に関与。heterophilicに作用。
  6. ニューロリギン、ニューレキシン: 神経シナプスの誘導に関与。
    ニューロリギン(neuroligin) [ニューロリギン1、ニューロリギン2、SynCAM1など」は後シナプスの接着分子で、神経シナプスに発現。これとheterophilicに結合する前シナプスの接着分子タンパク質がニューレキシン(neurexin)である。
  7. 細胞表面プロテオグリカン: heterophilicに作用。
 カドヘリンスーパーファミリー
  クラシックカドヘリン(cadherin)
多くの細胞で発現されているCa2+依存的な接着分子。E-カドヘリン(別名L-CAM,上皮),N-カドヘリン(別名:A-CAM,脳),P-カドヘリン,R-カドヘリン(網膜),M-カドヘリン,VE-カドヘリン-など多数の分子見つかっている。
 ホモフィリック(同じ分子同士)で結合し,アドヘレンス・ジャンクションを形成。カテニンを介して細胞内骨格系(アクチン繊維)に連結。
Eカドヘリンを介した細胞接着
  ノンクラシックカドヘリン
・デスモコリン(desmocollin),デスモグレイン(desmoglein)などはデスモソームの形成と維持に関与。細胞内の中間径フィラメントに連結。
・T-カドヘリン: 神経や筋肉に存在。
・プロトカドヘリン: 神経に存在。化学シナプスを形成。
・Fat: ショウジョウバエの上皮や中枢神経に存在。
 インテグリンファミリー
2本の異なる膜1回貫通型タンパク質(a鎖とb鎖)のヘテロ二量体分子。19種のa鎖と,8種のb鎖がある。少なくとも25種のabヘテロ二量体が存在。細胞内骨格系に連結し,アクチン繊維につながる。分子の大部分は細胞外に突き出,細胞内ドメインにはテーリン,ビンキュリン,テンシン,a-アクチニンを介してアクチンフィラメントが結合。さらに,FAK, Src, Grb2, p130Cas, Crk, DOCK180などの情報伝達系タンパク質と相互作用。血小板の凝集,炎症部位での血管内皮細胞への白血球の接着と浸潤,抗原によるリンパ球の活性化などに関与。
インテグリンファミリー
サブユニット リガンド 最小結合配列
β1 α1 COL, LM
α2 COL, LM DGEA
α3 FN, COL, LM RGD
α4 FN, VCAM-1 EILDV
α5 FN RGD
α6 LM
α7 LM
α8 ?
αv VN, FN RGD
β2 αL ICAM-1, ICAM-2
αM 補体C3b, FB, X因子,
ICAM-1
αX FB, 補体C3b GPRP
β3 αIIb FB, FN, VW, VN, TSP RGD, KQAGDV
αV VN, FB, VW, TSP, FN,
OS,COL
RGD
β4 α6 LM
β5 αV VN RGD
β6 αV FN RGD
β7 α4 FN, VCAM-1 EILDV
αIEL ?
β8 αV ?

インテグリンを介するシグナル伝達
COL, コラーゲン: LM, ラミニン: FN, フィブロネクチン:
FB, フィブリノーゲン: VW, フォンビルブラント因子: VN, ビトロネクチン:
TSP, トロンボスポンジン: OS, オステオポンチン。―は結合配列が不明。
 
 セレクチンファミリー
E-セレクチン,P-セレクチン,L-セレクチンがある。Lewis (シアリルLex, シアリルLea)抗原に特異的に結合。語源はSelect + lectin (レクチン = 糖結合性タンパク質の総称)から来ている。
セレクチンファミリーと結合糖鎖の構造
セレクチンは糖鎖とヘテロフィリックに結合。
セレクチンと糖鎖リガンドの接着を示す模式図
セレクチンのレクチン様ドメインとシアリルLex糖鎖の相互作用
左は横から見た図,右は真上から見た図。灰色の丸はCa2+
セレクチンは血管内皮細胞表面に存在。白血球が血管内皮細胞に接着し、血管外に浸潤する時にセレクチンが関わる。
炎症がおきると,白血球は血管内皮細胞のセレクチンに弱く結合し,内皮細胞表面を転がる(ローリング)。次いで内皮細胞のインテグリンリガンドであるICAM-1,VCAM-1に白血球のインテグリン(LFA-1)が結合し,炎症部位へ向かう。
炎症部位への白血球の遊走と細胞接着分子
 免疫グロブリンスーパーファミリー
免疫細胞間の相互認識と免疫応答,臓器拒絶反応,ガンの転移,リンパ球のホーミング,胎生期の形態形成,ウィルス感染に関与。
  免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリーの仲間
  1. 免疫系ファミリー
    免疫細胞間の情報伝達,抗体,サイトカイン,異物の認識など免疫系全般に関与。
  2. 神経系ファミリー
    神経細胞の突起伸展,回路形成,イオンチャンネル形成などに関与。
    a. 単純型: Igドメインのみをもつ
    b. 複合型: フィブロネクチンVドメインももつ
    c. 混合型: その他のドメインをもつ
  3. その他
    細胞増殖因子受容体など。
  4. 昆虫のファミリー
いずれも,分子内に免疫グロブリン(Ig)ドメインをもつ。
免疫グロブリン(Ig)ドメイン
7本の逆並行b-シートで筒状構造を形成。S-S結合が少なくとも1つある(左図を参照)。

  免疫グロブリンスーパーファミリーのドメイン構造

  1. 免疫系ファミリー

    免疫グロブリンファミリータンパク質の機能の例
    (左)ヘルパーT細胞と抗原提示細胞の相互作用,
    (右)キラーT細胞と標的細胞の相互作用
  2. 神経系ファミリー
    (単純型) (複合型)

  3. 神経系の混合型と細胞増殖因子受容体
膜貫通ドメインの代りにタンパク質を膜につなぎ止める方法として以下のようなものがある。
真核細胞の細胞膜へのタンパク質のアンカリング
GPI: グリコシルホスファチジルイノシトール

接着分子の異常

多くの疾患が細胞接着分子と深く関わっている。また,ウィルス感染にも関わる。
臓器拒絶: ICAM-1とLFA-1,VCAM-1とVLA-4,CD28とB7。
ウィルス感染における標的: CD4(HIV)。MHCクラスT(サイトメガロウィルス)。ICAM-1(ライノウィルス)。膜のシアル酸(センダイウィルスやインフルエンザウィルス)。
ウィルス感染における細胞膜成分の関与
(A) ICAM-1はライノウィルスの標的。
(B) センダイウィルスは膜シアル酸に結合し,Fタンパク質の作用で  宿主細胞膜と融合。
慢性関節リウマチ: インテグリンファミリー(LFA-1, VLA-4, VLA-1),Igスーパーファミリー(ICAM-1,VCAM-1),セレクチンファミリー(E-セレクチン)などが関与。
呼吸器疾患: LECAM,CD18とICAM-1。
ガンの転移: セレクチンファミリー,カドヘリンファミリー。
白血球粘着異常症: インテグリンb2の欠損→ローリングの異常。